ITニュースです。東芝やソフトバンクが主導しIoT分野の100社連合をつくるというニュース。今回はこちらをオカズに愚考を進めてまいります。
ニュースの概要
まず私が見たニュースを2つご紹介。いずれも日経のニュースです。(無料登録すれば全文が読めます。)
ニュース記事1つ目
最初に見たのはこちら。
(以下、要約)
東芝やソフトバンクなどが、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」を活用した次世代サービスを開発する企業連合を20年春に立ち上げると発表した。様々なメーカーの家電やセンサー、スマートフォンのアプリを組み合わせ、システムを1~2日で試作できるようにする。
東芝が自社のIoTシステムを開放し、国内外の大企業やスタートアップ企業、大学、ギグワーカーが商品開発などに柔軟に参画できるIoTのプラットフォームをつくる。20年春には100社体制でスタートする見通し。
IoTの企業連合が狙うのは、メーカーが異なる製品やサービスを自由に組み合わせて新たなサービスを開発するためのプラットフォームづくりだ。
傘下企業・団体の会費は企業規模などに応じて年3万~360万円とし、システムの運営費に使う。東芝は傘下企業の試作したIoTサービスが試作から実用化に移る段階で、システム運用・保守の需要を見込む。
米アマゾンは家電メーカーなどが自社製品に組み込むだけで同社の人工知能「アレクサ」と連動できる「コネクトキット」を展開している。アレクサで動かせる製品は85,000品以上にのぼる。東芝やソフトバンクなどの企業連合は、IoTでアレクサのような役割を提供したい考えだ。
ニュース記事2つ目
そして翌日の続報がこちら。
(以下、要約)
デンソーや京セラなども参加し、利用する企業や個人はメーカーを問わずに機器を組み合わせられる。巨大IT企業が進める囲い込み戦略の対抗軸となり、利用者の目線でIoTが広がる可能性がある。
東芝が19年度中に事務局となる一般社団法人「ifLinkオープンコミュニティ」を設立する。東芝が自社のIoTシステムの技術仕様を公開し、参加企業を呼び込む。東芝は「本当につながるIoTの世界をつくる」と述べた。
企業連合の特徴は「脱・囲い込み」だ。20年春に100社体制を目指す。サービス創出にあたっては、「〇〇が△△したら」という条件と「✖✖する」という実行を組み合わせる。
試作段階の権利はかかわった企業が保有し、他者が二次利用する際に利用料を得ることも出来る。東芝が当初受け取るのは会費のみで利益は求めず、傘下企業が本格サービスに移る段階でシステム構築や運用といった需要を取り込む戦略だ。
企業連合の運営は幹事会員の合議制で決める。
ニュースの感想
ここからニュースの感想となります。
仕組みはすごく面白い
まず記事の内容だけだと、このifLinkというものが何なのかよくわからなかったです。ググってみると、公式のこちらがわかりやすい。
ようは、IoTデバイスを制御するための共通インタフェースをクラウド上に置いていて、ユーザ手持ちのスマホをコントローラにするのがミソのようです。クラウド上にあるから、その制御用インタフェースの管理は東芝ifLinkがやってくれて、デバイス間の連携もクラウド上で繋げてくれるというお話。
仕組みとしてはすごく理にかなっているものだと感じました。想像ですがIoTシステムの何が難しいかと言ったら、それは機器間の連携、そしてセンサーの調整だと思うんです。機器間の連携ってのは最初にあるとても大きなハードルだと思います。それをクラウド上で実現できるという点は、すごく面白い、未来的な発想だなと感じました。
あと個人的には『「〇〇が△△したら」という条件と「✖✖する」という実行を組み合わせる。』という表現がとても分かりやすいと思いました。
さて、仕組みは面白いんですが、どうも記事を読んでいると「う~ん・・・」と思う要素も垣間見えたので、重箱の隅をつついていきます。
脱・囲い込み?
まず最初に「あ・・・」と思ったのは、ここ。東芝ifLinkがこういう言葉を使ったのか、日経が記事を書くなかで付けた言葉なのかはわかりませんが、『脱・囲い込み』、これ。
このifLinkというプラットフォーム、東芝とソフトバンクなどが組んで始めるサービスのようです。東芝とソフトバンク、、、ね。そしてニュース記事2つ目の方を読むとKDDIも連合入りをしているそうです。囲い込み戦略がとても重要となる通信キャリアから二社が連合入りです。しかも発足メンバーとして入るようなので、これらの会社が今まで培ってきたナレッジが存分に生かされる展開になるのではないか。そんな予感がします。
そしてもう一つ私が感じたことは、この連合が真に「脱・囲い込み」になるのか、という点です。GAFAなどの巨大IT企業が一騎当千の力を持っていて、そこに対抗するためにみんなで連合を作ったというのが今回のお話です。これって囲い込んでいるのが単独企業なのか企業連合なのかの違いだけで、囲い込みは囲い込みで変わらないんじゃないですかね。
今回は100社連合という話ですが、これは裏を返すと「100社以外は排除」とも取れるわけです。ソフトバンクとKDDIが連合に入るとありますが、ドコモや楽天が連合入りしようとした時に、普通に入れるのか。また東芝と同じようなIoTデバイスを安価で売っている会社が入ろうとしたときに、ちゃんと入れてあげるのか。そこが見えてこない限り「脱・囲い込み」という旗を心から信じることは出来ないなと思います。
今回報じられたIoT連合がどういう組織・ルールでやっていくかはまだ分かりません。しかし、「脱・囲い込み」の旗を掲げるなら、真に開かれたプラットフォームっていうのを追及していかなければならないのでは、と感じました。どうも真に開かれた自由な空間という印象を持てないのですよねぇ。
合議制?
この連合は幹事企業の合議制を取るようです。日経の記事では合議制とすることにより意思決定が遅くなるのではという指摘がされています。そこは確かにそうだなと思いました。
私がちょっと「あれ?」と思ったのは「幹事企業の合議制」という点。この連合の中の「幹事企業」というのは発足メンバーが大半を占めるでしょう。そして後から連合入りした企業はよっぽどのコンテンツを持っていないとルールを作る側にはなれない仕組みになると思います。まぁ普通の会社は幹事企業になれないでしょうね。
なので市場のなかで優位性を持っていない企業は幹事企業が多数決で決めたことに従わなければならないわけです。こういうのって大体内紛が起こるんですよね。次節に書く権利周りの話とか、特定企業による競合排除のための裏工作とか、それによる派閥争いとか、そういうので。
幹事企業が先行者利益を取ることは悪いことじゃないと思います。しかし組織が正常に機能するための仕組みがなければ、段々と腐っていって出来の悪いガラパゴス連合になるようなそんな予感もしております。来春の発足時点で外資メーカーがそれなりの数入っていて、かつ幹事もやっている状況なら、国内企業の空気を読みあった微妙な寄り合いにはならずに上手く回るんじゃないでしょうか。
権利?
これも気になりました。
試作段階の権利はかかわった企業が保有し、他者が二次利用する際に利用料を得ることも出来る。
ここは日経記事の引用ですが、「かかわった企業」って具体的にどこを指すんでしょうか。デバイスを供給しているだけのメーカーが「かかわった企業」に入るのか?
このIoT連合が提供する価値は「デバイスの組み合わせを簡単にする」なので、ようは組み合わせの話なんですよね。デバイスの組み合わせパターンに権利が発生するってのは、よく理解できませんね。たとえばIntelのCPU、どこそこのメモリ、どこそこのストレージを組み合わせる権利なんてものは存在しませんし。
もっと先を見ているんでしょうか。IoTシステムの構築が容易になると、詰まるところデバイスの組み合わせパターンを知っていれば他社と同じものが作れるという世界になります。技術力の有無ではなく、パターンを知っているかが重要になる。そうなると頑張って試行錯誤して組み上げたIoTシステムを簡単にコピーできてしまうから、それを抑制するという話なのかもしれません。
待て待て、そうすると1つ疑問が湧いてきますね。デバイスメーカーは1台でも多くのデバイスを売りたいはずです。となると、デバイスの組み合わせに対して権利が発生することなんか望んでないんじゃないでしょうか。「デバイスメーカーは部品を作ることだけじゃなくて、お客の課題を解決するソリューションメーカーに生まれ変われ」とそういう事なのかしら。
やっぱりちょっとキナ臭い感じがしてきた。とにかく色んな組み合わせを試して、試作品を作り、その権利を握った企業がトクをする。となると発足時から連合に入っていて、試作品開発に投資のできる強い企業がおいしいところを持ってく仕組みなのではないだろうか。そんな風にも見えてきますね。
まぁここに書いていることは三度の飯より邪推が大好きな私の推測です。ただ「権利」っていう話が出てくると、「権利者を守ること」と「自由な発展」のバランスをどう取るかという話につながりますよね。発足時の加盟企業が「パテントトロール in IoT連合」となり、新加盟企業に「5年縛り」でも導入したら、完全アウトですね。
システム構築や運用で儲ける?
うーん、
東芝が当初受け取るのは会費のみで利益は求めず、傘下企業が本格サービスに移る段階でシステム構築や運用といった需要を取り込む戦略だ。
これはよくないと直感的に思いました。
結局のところシステム構築や運用ってのは人月商売じゃないですか。日経の記事には「東芝やソフトバンクなどの企業連合は、IoTでアレクサのような役割を提供したい考えだ。」と書いてあります。アマゾンは最終的にアレクサをいっぱい売ったり、そこから上がってくるデータを別に生かすことで収益をとっていると思います。
システム構築や運用で稼ぐ戦略を取るってことは、人がいないと始まらないってことです。東芝の得られる利益は動員できるエンジニア×人月単価が上限になってしまいますよね。仮に海外の会社から引き合いが来たって時に、東芝のエンジニアが現地に行ってデバイスの設置や調整をするんでしょうか。しないですよね。
既に若干のガラパゴス臭が漂い始めているのがとても気になります。連合だから東芝だけが利益を取るってことができないのかしら? 最終需要者が月に1,000円くらい払う仕組みにした方がいいと思うのですが。
プラットフォームの掌握
こういうプラットフォーム掌握戦というのは大体どの分野でも「キラーコンテンツを握れるか」と「圧倒的な製品ラインナップによる利便性」が普及のポイントになります。IoTデバイスの世界で現状キラーコンテンツと呼ばれるものがあるのかは分かりませんが、この連合は後者を抑えに行ってるように見えます。これ、どうなんでしょうかね。
ここでふと疑問。世界の巨大Tech企業はIoTプラットフォームをやっていないのかしら?んな訳ないっすよねぇ、ちょっと調べてみましょうか。
Google先生
北米のAmazon
BAT共和国よりAlibaba
うん、錚々たる顔ぶれ。世界は知らない内にどんどん進化してるんですね。全然知らなかった。GoogleなんかはIntelやCiscoとパートナー契約をしてるそうで、なんかとんでもないチームのように見えます。地球代表として他の惑星との競争もできるレベル。
日本のIoT連合はこういったプラットフォームと闘っていくのですね。ムネアツです。世界では上記のような ”巨大Tech企業が主導するプラットフォーム” が ”既に存在” していて、日本国内からは ”IoT連合が合議制で物事を決めるプラットフォーム” を ”これから作る” と。相当厳しい戦いになりますね。「投資しませんか?」と言われたら、ちょっと怖くて出来ないかなぁ。
国内需要についてはIoT連合の方がやりやすい面もあると思います。日本のメーカーからサクッとデバイスを調達できますからね。また設定も簡単そうなので動作させるところまでサクッと進められそうな気がします。
しかし、本格的にIoTをやろうとしたら、連合のシステムじゃ物足りなくなってしまうのではないでしょうか。まだ見えないところもありますが、複雑なことをやろうとしたら、結局はGoogleのシステムでスクリプトを動かすっていうことが必須になるような気がします。
はてさて、IoT連合は来春のオープンとのことですが、どのような船出となるのでしょうか。実はけっこう楽しみにしています。
おわり