ホンモノのエンジニアになりたい

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全ての小中学生向けにPCを配置。5,000億円、パッと使っちまおう

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おいしそうなITニュースを発見しました。全ての小中学生が使えるようにPCを配置するというニュース。今宵はこちらを肴に愚考を進めてまいりましょう。

 

 

ニュースの概要

日経で19/12/03に報じられていたニュースです。日経は無料登録すると月に10本まで無料で記事を読めます。

 

以下、ニュースの概要です。

政府・与党は経済対策として国や地方からの財政支出を13兆円規模にする方針を固めた。民間の支出を加えた事業規模は20兆円を超える見通し。

2023年度までに全ての小中学生がパソコンなどのIT端末を利用できるようにする予算を盛り込む。文科省によると小中高のパソコン配置は5.4人に1台にとどまっている。政府が主導し都道府県単位で調達コストを下げ、早期整備を目指す。23年度までの合計で総事業費5000億円程度を見込む。19年度の補正予算には1500億円超を盛り込む。

オンライン教育の拡大で地域間の教育格差を縮小する。

 

1人1台配るのか?

日経が書いている5.4人に1台の割合でパソコンが設置されているというのは、↓これがソースになっていると思われます。

学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【速報値】について:文部科学省

政府統計に詳細データがありました。↓

学校における教育の情報化の実態等に関する調査 平成30年度 調査結果(速報値) 調査項目(平成31年3月現在)| 政府統計の総合窓口

 

予算規模の観点から考えてみましょう。23年度までに5000億円を見込むらしいですね。小中学生が対象ということなので、9学年です(卒業生の分は新入生が使うんでしょうかね)。総務省統計局のデータを信用すると、いまの小学生年代は各年齢で100万人くらいいるそうなので、ざっくり900万人のマシンを調達する必要がありますね。

統計局ホームページ/人口推計/人口推計(平成29年10月1日現在)

 

全員に1台分のPCを購入するとなると、5000億円÷900万人なので、55,555円/人の予算がついていることになります。

あぁPCの購入費だけではないですね。調達に関わる人的コストや、使途不明金(!)があるはず。これを総事業費の1割と考えると、4500億円÷900万人=50,000円/人。

「原資は税金なんだよっ!既存のPCも有効活用しないとダメじゃないかっ!」という庶民からしたら至極真っ当な、そしてお役人様からしたらベリークレイジーな案を採用したとすると、現在5.4人に1台の割合で既存資産としてのPCがあるわけだから、残り必要なのは5.4人に4.4台。900万人に換算すると、900万人×(4.4台÷5.4人)=733.3万台あれがオッケー。4500億円÷733.3万台≒61,000円/台。

 

いずれにしても、それっぽい数字が出ましたね。本当に1人1台のPCを使えるように整備していくようです。900万台近くを調達するわけですから、相当買いたたくこともできるでしょう。1台100円の利益のところまで叩かれても9億円の利益ですよ。

 

ちなみに900万台という数字がどれほどの数字かピンと来なかったため、国内のPC出荷台数を調べてみました。MM総研社が調査結果を公表していました。

2018年度 国内パソコン出荷概要 « ニュースリリース | 株式会社MM総研

出荷台数は1,183.5万台で、前年度比14.5%増

2018年の出荷台数が1,183万台!?去年の出荷台数の76%を、これから官製需要として作り出すと。デカすぎワロタ www

 

感想

いやぁ正直1人1台が使える環境になるとは思ってもいませんでした。以前、私は↓のエントリにこんなことを書きました。

 


しかしどうなんだろう、CにしろHTMLにしろ軽量言語にしろ、座学で学ぶより実機で書いて動かす方が遥かに効率的に学習できると思うんですよ。じゃあ自由に使えるPC持ってない学生は非効率な勉強を強いられるのかという話もこれから出てくるんじゃないでしょうか。義務教育なんだから国がPC支給しろよという主張も出てくると思う。貧困の連鎖という問題を考えると確かにそう。貧困世帯は机上デバッグしなさいってのは乱暴ですし。結局は、税金でPC配るか、PCルームを作って開放するか、はたまたPCの保持に関係ない授業内容になるか。特に大学入試にあたっては家でも勉強できるというのは非常に有利に映るはずです。また自治体によっては学校へPCを十分に準備できないところもあるはずで、そのあたりの格差が発生しないような環境を準備しなければならないのは結構大変だと思います。 


 

「結局は、税金でPC配るか」とか「結構大変だと思います」という意見を書いたんですが、ぶっちゃけ実現するとは思っていませんでした。今回意外にもサクッと実現することになりそうで驚いた、というのが正直な感想です。

 

PCのことを愚考する。

OSはどうする?

PCを導入するのはわかった。で、どのOSのマシンを入れるのだという話も気になってきます。私は「別にOSは何でもいいんじゃないか」と思っています。が、考え無しに決めるのは反対です。結果的に同じ選択になるんだとしても、十分な議論が必要だと思います。

キチンと目的を置いて、その目的を達成できる・先を見通したベストチョイスを賢いお役人様にやっていただきたい。日本企業はWindowsの利用率が高いからWindowsとか、値段重視・世界での実績からChromeOSとか、キチンと理由を挙げてチョイスしてほしい。メーカーからのキックバックの大きさ、安心安全の国産メーカー、「俺たちWindowsしか分からない」、みたいなアホな理由で決めるのはやめてほしいです。

たしかIT教育の目的はプログラミング的思考を身につけさせるところにあったと思います。だから本質的なところを考えるとOSは何でもいいはずで、特定のOSでしかできないことなんてほとんど無いんだよと教えてあげるのも重要。

 

メーカーは?

これも気になりますよね。どこのメーカーのマシンを導入しても一定の批判が出ますから。今回はなぜか経済対策の話のなかにこの件がおかれているので、純粋な国産メーカーのマシンになるような気がします。まぁハードはあくまでハードですから、最低ラインを越えていて、変なお金の流れさえなければどこでもいいと思います。

 

はて、国産メーカーでChromeOSを取り扱っているのはどこがあるんだろうとググって見たら、こんな記事を発見。19年11月5日の記事です。ちょうど1ヶ月前ですね。

 

こ、これは、、、強烈に匂いますなぁ。笑

 

管理・マネジメントのことを愚考する

PCって学校保管にするのだろうか?

1人1台のマシンを使えるようにするってのはいいとして、そのマシンはどうやって管理していくんだろうか。こんな疑問が湧いてきました。

教科書のように個人に託して「自己管理・自己責任」という形にするのだろうか。1台数万円はするであろう端末を小学生に管理できるとは思えません。小学生が登下校でそんな端末を持ち歩いていたら、狩られるのは必至です。転売したらそこそこな金額になる上に、相手は小学生ですからね。じゃあ学校のロッカーに入れておくのか?これはこれで校内でパクられるのは必至です。売れるルートが確立されれば、もう奪い合いにしかなりません。

となると、学校管理になるのだろうか?それはそれで使い勝手が悪いし、1人1台使えるようにするメリットも薄れてきてしまう。結局、集中管理するならPC教室みたいな形になりかねず、授業の中で普段使いしにくくなってしまう。

この問題、考えていくと解決するのけっこう大変なもののように感じます。いや、既に大量導入している自治体・学校もあるからそこと同じような運用をすればいいのか。でもどうやるんだろう?

 

最終的に転売されることを防がないといけないわけですね。PCの見た目を専用デザインにする笑?一目で「あのPCは小学校で使われているやつだ」と分かるデザインにするとか。いや、そうなったらそうなったで、分解して部品で売ればいいだけの話だから対策にはならない。むむむ、むしろPCを分解して部品が売れるってことに気づいたんなら、それはそれでICT教育の成果と捉えることもできるわけで、教育関係者からしたら生徒の創意工夫に感嘆の念をあげるべきことなのかもしれない。

 

でも本当にどうするんだろう。一庶民として、納税者として言いますが、「税金で買ったものが簡単にパクられて転売されるなんてこと無いように考えてくださいね」

 

中古PCを買おうかなと考えている方は、もう少し待つのが賢明だと思われます。来年度以降に大量の新中古PCが市場に流れてくる予感がします。

 

先生は大変でしょう?

本質的にはこのエントリと関連が薄いところではありますが、PCを使ったり電子黒板を使ったり、そういうのを取り入れるので先生方はとても苦労されているなんて話も聞きます。これについて私の思うところを簡単に述べさせていただきます。

 

先生方はご存じないでしょうけど、世の社会人・ビジネスパーソンというのは、常に新しい知識や技術を求められており、何らかの学びを続けているのであります。今までと同じ水準でしか業務をできないのであれば、給料は上がらないし、むしろ前進しないこと・停滞することはマイナス評価の対象にさえあがることがあります。これが世間一般の常識です。

翻って教師の皆さんはどうでしょう。毎年毎年同じことを生徒に教えているわけですが、皆さんの教える力というのは成長しているでしょうか。私が学生だったころのことを思い出すと、教える力と年齢は相関しているようには思えませんでした。むしろ若い先生の方が、効率的に教える意欲を持っていたように感じます。

皆さんは生徒に日頃宿題を出すでしょう。皆さん自身は宿題をやっていますか?ビジネスパーソンは自分の力を伸ばすために、業務後に資格試験の勉強をしたり、本を読んだり、勉強会に参加したりしています。

諸説ありますが、現代のビジネスパーソンにとっては、英語・IT・会計が3種の神器なんて言われることがあります。教職の公務員にとって、会計は不要かもしれませんが、英語とITは必要です。外国人の生徒が日本に来た時に受け入れできますか?海外の教育現場の先進的な知見を活かすことができますか?業務を効率化するためのツールとしてITを使えますか?

仕事にそれが必要なら会社(国)が教育体制をとってくれなきゃおかしい。という意見もあるでしょう。それはその通りだと思います。しかし会社や国が従業員を教育するのにも限度があります。これは皆さんの方がよく理解されていることだと思います。皆さんの生徒は大半が皆さんの教育品質に満足しておらず塾に通っていますからね。生徒向けには「学校で教えることには限界がある」というスタンスを取りながら、自らが学ぶ立場のときは「全て教えろ。出来るように教えろ。」というのはダブルスタンダードですよね。良くないです。皆さんも塾に通った方がいいんじゃないでしょうか。

 

あぁいけない。このエントリの本質からだいぶズレてしまった。基本的に学校の先生のことが好きじゃなかったので、少し熱くなってしまいました。この節で書きたかったことは、「先生も勉強しないといけないので、大変ですね。」ということ。

 

愚考結考(結構)

ここまで愚考を展開してまいりましたが、いま私が思うことは「拙速に過ぎるのではないか」ということです。如何にも2020年度からのプログラミング教育に間に合わせるためにとにかく動きましたという印象を受けています。ちゃんと考えないとダメなんじゃないでしょうか。考えてんのかもしれないですが、どうもそれが見えてこない。

このプログラミング教育の話は、現在のPC台数が少ない中で工夫して、少しずつPC台数を増やし、コンテンツも充実させていくものと思い込んでいました。一歩ずつ探り探り進んでいくようなイメージですね。教育格差の是正は遅れますが、出来ることと出来ないことがあり、長期の視点で改善していくのが現実的なものだと考えていました。

しかし今回の報道では、これを一気に解決させる道を進むと。一気に変えるってのは歪みも大きくなります。きっと現場では、「PCがいっぱい届いたけど、どうしたらいいかさっぱりわからん」という話が増えていくでしょう。先生が塾に通ってお勉強する時間も取れないでしょう(よかったですね)。

日経の報道によると今年度から追加の予算がつくとありました。具体的に何をするのか分かりませんが、対応が拙速になるだけで良い結果を生むようには思えません。もしかして、もう既にメーカーと握手をされているんでしょうか?

 

 

文科省が公表している資料で『小学校プログラミング教育の手引(第二版)』というものがあります。

小学校プログラミング教育の手引:文部科学省

ここにはこう書いてあります。

「プログラミング的思考」は、「自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力」

 

今回のニュースをここにあてはめて考えると、「自分が意図する一連の活動」というのはハードとソフトが導入されてプログラミング教育が行われる素敵な世界の実現を指していると考えられます。

そしてそのために「どのような動きの組合せが必要であり(中略)、どのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか」、ここの情報がいまいち見えてこない。決まっていることもあるのかもしれませんが、「こうやって教えるんだ」という姿がやっぱり見えないのです。

 

一庶民の目線から見ると、プログラミング的思考を教えるための準備が、プログラミング的思考に基づいていない、というなんとも愉快な話に見えてきます。

 

このエントリはまだ発表されていない内容を推測で書いているところもあります。ハードの調達には時間が必要だと思うのですが、巧遅拙速のバランスを取って進めてほしいなと思いました。