ホンモノのエンジニアになりたい

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SIerにおける情報処理試験の現状(2018年)

先日、2018年春季の情報処理試験が実施されました。私は久々に受験したのですが、いま日本のSIerで情報処理試験がどういう位置づけで捉えられているか、また企業内ではどうなのか、ということを考えてみたのでこのエントリでまとめようと思います。

目次

 

世間での位置づけ

SIerは情報処理試験が好き

「会社が」という意味です。私が勤めている会社の事は後述しますが、ある程度の規模のSIerでは人事評価の仕組みに情報処理試験を取り入れているところが大半であると思います。

 

理由は簡単。

一つは技術力を測る共通のモノサシが無いからです。技術の進化、そして流行り廃りが早いIT業界ですから、多くの社員の能力を測るための共通の指標がありません。そこで誰でも挑戦できて、結果がはっきりとわかる試験を評価基準の1つに据えているというわけ。

二つ目は受注の条件となるケースがあることです。明確に入札条件となっている場合もありますし、契約の中で〇〇試験合格者、または相応の知識・経験があること、と指定されてるケースも見たことがあります。

そして副次的な効果として、(一応)試験に合格するためには各技術分野を網羅的に学習する必要があることから、社員のスキルアップを図れるという理由。

 

関連情報としてThinITの記事です。「日本のIT企業に勤めるための試験」というタイトルで皮肉かと思いきや肯定的な内容でまとまった記事。試験は目的と使い方次第よという話。

情報処理技術者試験は、「日本のIT企業に勤める」ための試験(第3回) | Think IT(シンクイット)

  

 

統計情報から分析してみよう

IT業界で「所詮は資格」と言われる代表選手である情報処理試験。そんな言われ方をされることもあるけど実態はどう扱われているか、IPAが公表する統計情報から考えてみる。

 

まず受験者推移。

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IPAの統計情報より(https://www.jitec.ipa.go.jp/1_07toukei/oubosya_ruikei.pdf

 

「所詮は資格」という考え方が広く知れ渡ったのか、平成22年に応募者は62万人いるが、平成27年には45万人まで減少。しかしながら平成28年、29年には受験者が増加し昨年は51万人まで上昇。 

 

日本の人口は平成21年に1億2800万人、平成29年には1億2670万人で約1.1%の減少。

(総務省統計局:http://www.stat.go.jp/data/jinsui/2017np/index.html 表1参照 )

つまり人口の減少によって単純に縮まった数字ではない。IT業界で働く人数の時系列データは見つからなかったが、平成22年と比較すると平成29年では応募者ベースで17%減少している。なぜこれだけ減っているのかと考えて、IPAが公表している別のデータについても集計・分析を試みた。

 

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(IPA公表データから作成:https://www.jitec.ipa.go.jp/1_07toukei/_index_toukei.html )

受験者推移(上表)との間で数字の違いがあるが、元々公表されている集計データと各年度データで差異があったのと、比較軸を合わせるために一部を修正した。(H22からはITパスポート除外、H29からはセキュマネ除外)

 

こちらの数字で比較すると顕著な減少数となっているのは、「ソフトウェア業」、「情報処理・提供サービス業」であった。一般にソフトウェア業はOracleとかトレンドマイクロとか、国内だとオービックとかジャストシステムがそれにあたるらしい。

全体的に減少傾向があるものの、減少した10万9千人の内、IT関係業(表の上から3行)は8割以上を占めている。応募者全体の内、IT関係業は50%前後であることから、IT業界側が受験しなくなっている傾向が見て取れる。

 

とはいえ、平成22年のIT業界側企業の応募者は27万人、平成29年では18万人というそれなりに大きな数字になっている。これはIT業界の就業人数と比較するとどれくらいの割合が受験しているのだろうか。

大よその数字として、IT業界及びユーザ企業側のIT人材を合計すると、100万人程度になっている模様。

( 経産省資料: http://www.meti.go.jp/policy/it_policy/jinzai/27FY/ITjinzai_report_2.pdf )

 

上表ではITパスポートと情報セキュマネといった主にユーザサイドに需要のある試験区分を除外しているため、主な受験者はIT業界の従業員かユーザ企業のシステム担当で構成されている。そのため上表の社会人合計は上記の経産省資料における就業人口100万人を母数に持つ数字になっていると考えられる。

社会人合計の数字をみると、平成22年で42万人、平成29年で32万人が試験に応募している。本項冒頭の受験者推移表を正と見ると、もう10万人ほど上積みされる可能性もある。IT関係の就業人口が100万人なのに対して、社会人の応募者はおよそ35万人~45万人になると考えられる。

つまり ITに関係した仕事をしている人の内、10人に4人が応募する試験ということになる。

 

これを多いと見るか、少ないと見るかは人それぞれだと思いますが、私は思ったより多いというのが感想です。会社に受けろと言われて嫌々受験して合格した人などは既に卒業しているだろうし、現場に出ない管理職はあまり受けないだろうし、という部分を引くと現役エンジニアの内、必要な試験区分に合格できていない人の多くは真面目に応募し続けているのだろうと思われます。そう考えると応募者多すぎな感もあるくらいですが。新人が毎年受験しているのかもしれない。

 

 

SIerの中の話

企業内における情報処理試験の位置づけについて、私が勤めているSIerの中の話を書いていこうと思います。

私は中堅規模のSIerに勤めている社畜SEです。SI事業をやっている大手企業のグループ会社で、社員には「絶対に情報処理試験受けろよ」と言っているような会社に勤めています。そんな会社の中で必要な試験に合格していると、どんな素晴らしいことが起こるのか、また会社の社員の中ではどのような位置づけに捉えられるか、私の半径数メートルの世界の内容も入りますが書き記してみます。

昇給 

私が勤めている会社では、情報処理試験に合格すると昇給するケースが多いです。評価する側としても、合格したことは紛れの無い事実ですから、昇給させる理由があるというわけです。私が所属している部署では社員が5拠点に点在していて、それぞれやっている仕事も違う。それに使っている技術やそのレベルも違うものだから、公平に評価するということはなかなか難しいんです。プロジェクトごとの業績や、それに対する寄与度で評価していくのが正しい姿ですが、そもそも利益率はある程度プロジェクトごとに決まっているから、業績の悪いプロジェクトに入った社員の評価が上がらないでは不公正だし、各社員の寄与度なんてのは現場にいない管理職には実態が見えず公平に評価するのはやはり難しい。こんなわけで、全員に公平にチャンスがあって、会社も激推ししている情報処理試験は個人評価に使いやすいというわけなのです。 

手当て

うちの会社では合格すると手当がもらえます。細かい規定は書けませんが、高度区分に合格すると条件次第で5万円~15万円がもらえます。基本と応用でも条件次第でもらえますが、応用まではお小遣い程度の金額です。役職や年齢によって、結構細かく条件が決まっています。

昇格条件

役職を上げるための昇格条件にも情報処理試験の合格が必須です。一般的な役職をベースに書きます。

係長クラス:応用情報処理合格

課長クラス:高度情報処理合格

基本情報は昇格条件に当たりませんが、新卒入社の新人君が数年経っても取っていない場合は徐々に風当りが強くなり、どんなスペシャルな活躍をしても一定以上の給料には上がらない仕組みになっています。

持っている人の割合

私が属している部署や、その他何となく情報処理試験の話になったときのことを思い出すと、高度が1~2割、応用は2~3割、基本情報は8~9割くらいの人が持っている感じです。若手を除いて基本情報を持っていない人は、もうダメな人か、「資格ごときで評価すんな」という反体制派の人です。

高度区分に合格している人は、複数区分合格していることが多いのも特徴です。私もそうなんですが、技術力はともかく試験対策が上手い人は上述の手当を狙って受け続けている人が多いです。自分の得意な試験区分+国語問題が多いセキュリティとか、セキュリティ+それに似ているネットワークとか、そんな組み合わせが多い印象。

資格マニアを生み出しやすい制度にはなっていると思います。

社員の意識・捉え方

多くの社員は役職相当の試験区分に合格してればそれでいいや、と考える風潮があります。基本情報は持っていないと、受かるまで春と秋の時期を中心に迫害されるため、何とか合格しようというモチベーションが生まれます。あとは昇格がチラつきだしたところで、役職に応じて応用・高度と狙っていく人が多いです。

大体ヒラ社員クラスだと、応用情報を持っていると「へー凄いのね」という感想を持たれます。ヒラ社員の一部に高度区分を複数持っている人がいますが、そんな人は「怪物」「HENTAI」といった崇められ方をします。高度区分の合格率が15%程なのでそんなHENTAIでもないと思いますが、役職で要求される以上の勉強をして試験を受け続ける姿を見てマゾヒズムを感じているのだろうと思います。

持っていてよかったなと思える時

私はセキュリティとネットワークを持っていますが、持っててよかったと思えるのは以下の2点です。

 

◆一目置かれる感じがある

それこそペーパーテストで合格しただけですが、SIerの中やそこに関係する人からみると、高度区分に合格していることはなかなか凄いと評価されることが多いです。合格率がそんな低いわけではないし、過去問も公開されているし、テスト対策のテクニックも出回っているしで、実はそこまで難しくはないんですが高い評価をされることが多いです。たぶんこれはSIer周辺に日本の偏差値教育のトップ層があまりいないことに原因があると思います。勉強する習慣を持っている人が少ないってことですね。

また仕事上、初めて会う人にも高度を持っていると伝わると安心感を持たれることがあります。私はサーバ屋の仕事が多いんですが、特にネットワークスペシャリストを持っていることが伝わると、業務を行う上で最低限必要な知識は持っているんだなと勝手に解釈されることが多いと感じます。サーバ屋としてネットワークの知識が必要になることはそう多くありませんが、何かあった時にネットワーク屋と技術的な会話ができる人と勝手に思われて重宝してくれます。

 

◆基本情報を持ってなくて迫害される人を見たとき

上述しましたが、新卒入社の新人ちゃんが入社後、数年経ても基本情報を持っていないと社内的に風当りが強くなります。それが更に進むと迫害に近いレベルとなります。例えば部署の全体で集まるミーティングの場で、誰それはまだ基本情報を持っていないから本人はちゃんと勉強するように、周囲の人はそれに配慮するように、なんていうお触れが出たりします。また試験結果も全体ミーティングで晒されます。

全体のミーティングにおいて名指しで晒しものになるのもキツいですが、直属の上司も「部下に資格取得させられないやつ」と評価が下がります。自分が合格できないのは自分の所為で納得出来るだろうけど、周囲の人の評価にも影響が出るのがまた辛い。

こういう状況になるとSIerに入社してくる一般市民は「次は絶対に取らないと大変なことになる」と真面目に考えてしまう。更に周りにいる傍観者たちは「次は受かるんだろ?な?大丈夫なんだよな?」と、あたかもケツを叩いているように見せかけて、安全な場所から四苦八苦する彼の反応を楽しむような空気感さえ出てくる。(何か最近聞いたような) 

といっても急に「次の試験で合格しろ」と言われているわけではなく、ある程度の期間の猶予があってのことです。その中で会社がどれほど情報処理試験に重きを置いているかは社員に伝えているし、未取得者にはそれなりの投資をして受からせようとしてきた事実もある。迫害される理由があっての迫害なんですね。

ただこういうケースを目のあたりにしていると、「嗚呼持っていてよかった」と思います。

  

終わりに

SIerのSEとして仕事をする中で、情報処理試験がどういう扱いを受けているか整理したくなって、本エントリを書きました。IPAが公表するデータの分析は、やってみたら意外と面白い結果が出たので有意義でした。

「しょせんは資格、されど資格」と色んな意見のある情報処理試験ですが、やっぱり日本の会社、特にSIerにいる人、入りたい人は取得を目指すのがいいと思います。取得=スキルアップではないですが、勉強したことの半分くらいは実務をやるときの役に立つのではないかと思います。

 

おわり