ホンモノのエンジニアになりたい

ITやビジネス、テクノロジーの話を中心とした雑記ブログです。

JPQR始動に感じる違和感。なにかがおかしい。

hands

 

ITニュースです。

本日のお題はJPQR。キックオフイベントを取材したimpress社の記事からです。

 

www.watch.impress.co.jp

もくじ

 

記事概要

総務省および経済産業省は6月22日、国内コード決済統一規格「JPQR」の普及事業をPRするイベント「統一QR「JPQR」普及事業 キックオフイベント」を、和歌山県で開催した。

このイベントの主な参加者と挨拶内容は以下の通り。

 

石田真敏(総務大臣)

  • 「キャッシュレス推進協議会が統一規格のJPQRを策定して店舗が示すQRコードが1つだけですむようになりますし、総務省もキャッシュレス決済のメリットを地域のお店の方々に理解していただき、JPQR普及事業に参加するための説明会を開催しております」
  • 「ぜひキャッシュレス決済を使っていただき、その便利さを実感していただければと思います」

 

藤木俊光(経済産業省 商務情報政策局 商務・サービスグループ 商務・サービス審議官)

  • 「今後はJPQRをいかに普及させていくかという点に全力を尽くしていきたいと思います」
  • 安価に導入でき、決済手数料も総じて安く、端末導入コストも極めて低いQR決済に大いに注目するとともに、店舗、消費者、決済事業者それぞれにとってQR決済は大きな意味があると
  • (略)最近はインバウンドの多くのお客様が地方に行なっていますし、(略)
  • 「和歌山がキャッシュレスを引っ張っていくメッカになることを期待します」

 

仁坂吉伸(和歌山県知事)

  • 「和歌山県は、観光資源に恵まれておりますし、最近はIT産業も来てくださるなり、ワーケーション聖地として売り出そうとするなど、素質はあると考えています」
  • 「和歌山県がキャッシュレス日本一を目指します」

 

鵜浦博夫(一般社団法人キャッシュレス推進協議会 会長)

  • 「データの取り扱いにおいて、データは”誰の”ものか、ではなく、データは”誰のため”のものか、という観点が絶対に必要と考えています。もちろんそれは消費者であり生活者のもの、そして地方のためでもあります。こういった観点において、地方こそデータ社会の重要なメインプレーヤーになることが必要と考えています」

 

わかった、わかった。ちゃんとツッコミいれるから

揚げ足取りっちゃ揚げ足取りですが、ツッコミどころがとてもいっぱいあったので、つっこまずにはいられません。

 

まずは総務大臣

キャッシュレス推進協議会が統一規格のJPQRを策定して店舗が示すQRコードが1つだけですむようになりますし、

1つだけになりません!

そういう参画してない企業を存在しないもののように扱うのはとても不公平です。民間企業が言うならまだマシですが、総務大臣の肩書を持つ人が言っちゃいけない内容だと思います。

 

経産省の偉い人

今後はJPQRをいかに普及させていくかという点に全力を尽くしていきたいと思います

全力尽くすポイントが違うわ!

QRコードを通じたキャッシュレス決済が普及した結果として、みんながハッピーになることが目的でしょ。その目的があって、JPQRの普及はあくまで手段。手段が目的化してるように聞こえる。

最近はインバウンドの多くのお客様が地方に行なっていますし、

インバウンド需要を食いたいんなら、外国の決済サービスが入ってないとだめでしょ...あと仕様策定してる一般社団法人キャッシュレス推進協議会の英語版WEBサイトくらい作らないと...ガラパゴス路線を絶賛邁進中ってところですか。

 

続いて和歌山県知事

和歌山県は、観光資源に恵まれておりますし、

すいません、熊野古道しか知らないです。。。

和歌山県がキャッシュレス日本一を目指します

これは絶対に違う。この段階で方向性がおかしくなってる。日本一ってのが何を指しているか曖昧ですが、話の流れから普及率のことを言っているのでしょう。普及率ナンバー1を目指す?違うでしょ、目的はキャッシュレスな世の中になって事業者も利用者もハッピーになることだよ。ハッピーになるための手段がキャッシュレスという話であって、これを逆転させたら確実におかしくなる。

 

キャッシュレス推進協議会の会長

データの取り扱いにおいて、データは”誰の”ものか、ではなく、データは”誰のため”のものか、という観点が絶対に必要と考えています。もちろんそれは消費者であり生活者のもの、そして地方のためでもあります。

大正義は”誰のものか”だと思います。その大正義を前提において、そのうえで支障がなければ”誰のためのものか”と考えていくのがモダンな考え方だと思います。

こういった観点において、地方こそデータ社会の重要なメインプレーヤーになることが必要と考えています

意味がわからない。なぜ?

 

JPQRの違和感

違和感の原因さがし

違和感があると言いますか、こうなにかがおかしい、と感じる原因を考えていったところ、最初にひっかかったのは拙速感があることです。巧遅拙速という言葉がある通り、重要なのはバランスです。国が絡むプロジェクトは総じて巧遅の方向に倒れることが多いですが、今回は拙速側に倒れ込んでいる印象があります。これが最初の違和感です。なんかいつもと違うなぁと感じるんですよ。

あともう一つ。なんでQRコード決済に傾倒しているんだろう。クレジットカードでもデビットカードでも電子マネーでも何でもあるじゃないか。

 

QRコード決済をゴリ押しするまでの流れを調べる

なんか不自然な速さを感じるんですよね。キャッシュレス普及率ってだいぶ前から低い低いといわれていて、その度に日本人は現金好きという結論に落ちていました。その時のキャッシュレスってクレジットカードとデビットカードの話だったんですよ。それがいつの間にやらQRコード決済の話に刷り変わっている印象を受けています。

そこで過去の流れを復習し、いつからQRコードが主役扱いとなったのか整理してみませう。

未来投資戦略2017

最近のQRコード決済ウェーブが始まる前に公表された「未来投資戦略2017」をみると主役はクレジットカードです。「すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」をテーマにクレジットカードを使いやすい環境を整備しようとか、クレジットカードの利用率をあげることで消費データを蓄積しビジネスに生かしていこう、といったことが書いてあります。あわせてこの文書でキャッシュレス比率を20%から40%に倍増させるというKPIが設定されている。

そう、この時点では訪日外国人に焦点があたっていた記憶があります。まだ「データ=現代の石油」ってみんなが信じていなかった時期だと思います。あくまで観光客を増やすための一つの施策という位置付けのものであり、日本人の一般消費者はメインターゲットではありませんでした。

キャッシュレス・ビジョン

これに続いて経産省が平成30年4月に「キャッシュレス・ビジョン」という報告資料を公表しています。この報告資料でもQRコード決済に関して言及している箇所は少なく、

テクノロジーの進展に伴い、5.1.2 で述べたインターネットを用いた支払方法として、QR コード支払や生体認証(指紋等)支払等、事業者の創意工夫に基づくキャッシュレス支払サービスが次々と登場している。

とか、

今後もクレジットカードだけがキャッシュレスの主たる牽引役と見るならば、60%が妥当と考える。

とあります。「クレカが主役だと見るならば」と仮定を置いているので、この時点ではやっぱり主役はまだクレジットカードを見込んでいます。

この資料の最後に「キャッシュレス推進協議会に期待される役割」という項があります。

さらに、本ビジョンの検討の過程においては、我が国のキャッシュレス支払において主たる役割を担うクレジットカードを中心に議論が行われたが、キャッシュレス推進協議会(仮称)では、デビットカードや電子マネー、銀行口座間振込、FinTech を活用した新たなキャッシュレス支払等の他の支払手段についても、幅広く検討が行われる必要があると考える。

と書いてある。幅広く検討する必要がある、と。なるほど、幅広く検討する、ね。

未来投資戦略2018

そして続く「未来投資戦略 2018」(平成30年6月)において、いきなり具体的な話がでてくる。

簡易かつ高セキュリティなキャッシュレス支払の仕組みを確保しつつ、二次元コード(QR コード等)のフォーマットに係るルール整備について検討を行い、本年度中に必要な対応策を取りまとめるほか、携帯電話番号、生体認証技術等を活用したモバイル決済サービスなどの民間の取組に係るフォローアップや必要な環境整備に係る検討を行う。

キャッシュレスビジョンに書かれていた「幅広く検討する」がすっ飛ばされて、年度内に対応策を取りまとめるところまでやるということになっています。

 

そしてこれ以降、2019年(平成31年)3月にJPQRが発表され、同年8月からサービスインをしていくことに(いつの間にか)なったという流れです。

 

違和感の正体

ここまで調べて段々と「なにかがおかしい感」の正体が見えてきました。

 

いきなりQRコードが主役級に格上げされ具体的な対応策までまとめる話になっていること。そして未来投資戦略2018から9か月足らずで統一コードの仕様策定までが完了したこと。これらの動きが早すぎる感じがあるんですよね。

未来投資戦略2017では「すべての旅行者が、ストレスなく快適に観光を満喫できる環境に」とか言っていたものが、いつの間にかすっぽり抜け落ちてガラパゴスティックなサービスとして仕様策定されています。海外事業者をJPQRに”入れてあげることもできる仕様"になっているようですが、上述の通り英語版のWEBサイトも公開されていません。どうも入れてあげることもできる仕様にはなっているけど、入れてあげるつもりは毛頭ない、というメッセージにも見えてきます。

そんな風に愚考を進めてまいりますと、結局のところ「国内の消費データを海外事業者に取られたくない」というのが本音なのではないかと思えてくる次第でございます。EC領域では楽天が辛うじて戦っているものの、amazonに国内消費データを握られている状況のため、リアル購買データは海外事業者には渡せないという意気込みを感じてきます。

 

所感

この領域の話は、なんとなーくこのままガラパゴっていくような気がしています。

冒頭紹介した記事をみても目的と手段がごっちゃになっているように感じるし、あとうまく説明できないんですが、QRコード決済が次世代決済の主役になるようには思えないんですよ。なんかこうどうも、ありものの技術をくっ付けていったらスマホで決済可能な仕組みができあがった感があって、QRコードが異物のように感じるんです。

5年後の未来を想像すると、いちいち端末でQRコードを表示したり読み取ったりというアクションをしているとは思えません。もう一段階スマートなと言うか、シームレスに決済できるプラットホームが出てきていると思うんです。(どういう形のものかはわからないですけどね)

 

またいつの間にかQRコードがキャッシュレスの主役になっていることも疑問です。どちらかと言うと、クレジットカードやデビットカードの方が世界的に主役を張っているイメージがあるので、国内でこれだけ多くの事業者がQRコード決済に走っている姿が異様に見えてしまいます。QRコード決済を使ったことはありませんが、私が住んでいる東京ではSuicaの方が使い勝手がいいです。確実に。

 

ここまで読んでいただけた方はわかると思いますが、私はけっこうこのQRコード決済ウェーブはホンモノじゃないように感じています。やっぱりスマホを取り出して操作する必要があるってところと、不自然に早い政府・業界の動き、キャッシュレスの主役が誰であるべきかの議論が見えなかったところ、こういったことからまだしばらくは静観かなと感じました。誰かの思惑で動かされている感じがちょっと気持ち悪いので。

使ってみたら超便利だった、人生損してたよと思うくらい素晴らしいユーザ体験ができるならそれは期待したいのですが、はたしてどうなるでしょうか。

 

おわり