ホンモノのエンジニアになりたい

ITやビジネス、テクノロジーの話を中心とした雑記ブログです。

【私説】企業の発展を妨げているのは古いシステムではなく人間である。

people in  storm

 

社説ならぬ私説として書いていきます。ただのオピニオン系の読み物です。

日経新聞19/12/01の社説『日本企業はデジタル対応力の底上げを』を読んで、ちょっと違うのではないかと思ったため、揚げ足を取りながら私説を書いてみたくなりました。

 

Let's get started!!!

 

 

日経の社説

該当の社説はこちら。日経は無料登録すると月に10本有料記事を読めます。

 

以下、概要です。

  • 多くの企業にとって、デジタル・トランスフォーメーションが経営の重要課題に浮上している。しかしその対応能力は現状心もとない。
  • 問題点の一つは多くの企業でITシステムが老朽化、ブラックボックス化していることだ。日本情報システム・ユーザー協会の調査では、日本企業の7割が「古いシステムが変革の妨げ」と回答している。予算の多くがシステムの維持更新に使われ新分野への投資が滞る恐れがある。
  • もう一つの問題は人材の薄さだ。先端技術の開発は外部の専門企業に任せるにしても、自社をどう変えるか、そのビジョンを描くのは経営陣だ。ITスキルを持ち、経営課題をよく理解している人材が欠かせない。
  • 経営トップがデジタルの便利さや威力を理解し関与していくことも重要だ。トップ自身が理解すれば組織全体のデジタル化にかける本気度もおのずと高まるだろう。

 

「古いシステムが変革の妨げ」と言われる根拠

日経新聞の記事内で言及されていた『古いシステムが変革の妨げ』という言葉は日本情報システム・ユーザー協会の調査から来ているということでした。

この協会ウェブサイトではいくつかの調査の結果が公表されていて、どのレポートが該当するのかは分かりませんでしたが、似たようなことはこちらのレポートに記載がありました。

各種調査 | JUAS 一般社団法人 日本情報システムユーザー協会

このページの中の「『デジタル化の取り組みに関する調査2019』2018年度調査結果」というリンク先に置いてある資料の43ページです。

昨年度同様、レガシーシステムの存在は、デジタル化の足かせと感じる企業が多い。

これの根拠は「レガシーシステムの存在が、デジタル化の進展への対応の足かせになっていると感じますか。」という質問に対して、肯定的な回答が71.3%に達していることです。

 

この調査は本体(親会社)と情報システム子会社が半分ずつ入っている調査なので、割とバランスよく皆が『古いシステムが変革の妨げ』と考えているのが見て取れます。

 

 

私説

日経の社説は大体960文字ほどなので、私の書く「私説」も960文字を目安に書いていきます。

雰囲気を出すために画像化してみました。インクのにじみ具合をうまく表現できた気がします笑。画像の下に普通に書いた文章もあるので見やすい方でどうぞ。 

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【私説】企業の発展を妨げているのは古いシステムではなく人間である。

 デジタル・トランスフォーメーションの推進にあたり、古いシステムが変革の妨げになっているという風潮がある。これは事実であり、IT業界内外から強く指摘されていることだ。
 日本企業のシステムはERPと呼ばれるメインシステムに機能を付け加えながら従前の業務にシステムを合わせる形で開発されてきた。しかし海外では反対に従前の業務をシステムに合わせて変革している。ERPのメーカーがアップデートを行っても、日本企業では自ら付け加えた機能が足枷となり、恩恵を得るまでに長期間と高額な費用が必要となる。
 しかし「古いシステムが悪い」と声高に叫び「だから出来ない」と言う人が、本当にデジタル・トランスフォーメーションの担い手となり得るか真面目に考えていく必要もある。どのようなビジネスであれ、始めたときから全ての準備が整い、全てのリソースを手にしているものではない。足りないリソースをどう補い価値を提供するかが最も重要である。
 ここ数年、日本では金利が下がり、資金調達を行いやすい環境が整っている。古いシステムに予算が流れ、デジタルトランスフォーメーションに投資できないなら、外部から資金を調達する道を探してはどうだろうか。そこで調達した資金を使い、デジタル化事業を実行する。その事業の投資利益率が小さいなら、それはビジネスを起こし、伸ばす力が根本的に欠如しているということだ。
 また本当に『古いシステム』が私たちの発展を妨げているなら、古いシステムに縛られていない新興企業が他国と同数程度出現していても不思議ではないはずだ。近年IT技術を使い、誰もが知ることになった新しい企業が国内にどれだけあるか。その数は決して多くない。国内でシェアを獲得しても、世界に進出する企業は更に少数であり、成功事例は極めて少ないのが現状である。
 現代の私たち日本人にはビジネスを起こし、伸ばしていく力が欠けているのだろう。古いシステムがその一因であることは周知の事実だが、枷を外せば世界のトップランナーになれるわけでもあるまい。問題解決力、語学力、ITスキルなど私たちが高めていかなければならないものは多い。まずは現状を正確に認識することが、デジタル・トランスフォーメーションの第一歩である。


 

 

文字数制限がある状態で文章を書くってのは思いのほか難しかった。次項からこの私説の捕捉を自由気ままに書いていきます。

 

本当に「古いシステムが変革の妨げ」なんですかね?

ここで書いたデジタル化は『サービスのデジタル化』という意味で書いています。それまでアナログでしか提供できていなかったものをデジタルにして、魔法のスパイスを振りかけて(データ分析とかAIとか今風の技術)、サービスで稼ぐ。こういうことをデジタル化と言っています。たとえば今までDVDの現物を借りてこないといけなかったのがNetflixするとか、電話でタクシーを呼ばないといけなかったのがUberするとか、そういうやつです。

 

もちろん「古いシステムが変革の妨げ」の一因になっているとは思います。けどね、それが全てじゃないでしょ、ってのが前項の私説で書いたことです。今の状態って、「この足枷さえなければ、俺は100m9秒で走れるのにー」って言っている状態だと思うのです。その足枷がとれたときに、本当に稼げるデジタル化事業ができるかって言ったら、なかなか難しいものがあると思うんですよ。

 

ネトフリだ、ウーバーだ、というと話が大きすぎる感もありますが、身の丈にあったものでもキチンと稼げるデジタル化事業(?)を作ることって、そんなに簡単なことじゃないと思うんです。

 

システムが悪いから出来ないと言う人

「ウチのシステムはイケてないから、デジタル化できない」と言う人もいるでしょう。冒頭挙げた日経の社説で書かれているくらいなので、これからそういうことを言う人間は増えていくと思います。尤もらしいことを言っているように聞こえますからね。(実際それは正しくもある)

 

そういう人にはこういう言葉を掛けてあげてください。

「では、あなたの考える最強のデジタル化事業を教えてください。システムによる制約は存在しないと仮定した上で、です。」

この答えを聞いて、本当に稼げそうなビジネスを語りだしたら、それは本物だと思います。対して、そんな仮定上の話はできないとか、そもそも語れないという人だったら、その人はデジタル化を推進する人間として適していないと考えるべきでしょう。

何もシステムの設計をしろ、と言っているわけではないのです。あなたの描いた青写真を見せてと言っているだけです。この質問って実際に尋ねてみたら、どんな結果になるんでしょうかね。私は「システムが悪い」と言う人に出会ったことがないので、聞いたことないですけど、けっこう皆さん答えられるもんなんでしょうか?

 

システムが完全体になる前に

システムが完全体になることは基本ありません。ここで言いたいことは「システムが悪いから出来ない」という主張はいつか崩れる日が来るので、それに備えましょうという話です。いつかは、それなりにシステムが柔軟化するときが来ます。あるいはシステムは変わらないけど、周りの意識が変わるときが来ます。「もうシステムが良くなることはない。けどそれを前提に『デジタル化』の提案考えてこいよ」と言われる日が。

 

なので「システムが悪いから出来ない」という考えは早々に捨て去った方がいいと思います。もちろんシステムを介して基幹システムのナントカのデータをフンタラしてってのが自由に出来たらそれがベストです。しかしそんな理想的な状況になるにはとても時間がかかります。システムが完全体になる前に多くの人は「なんかデジタル化考えてこい」という命令をする/受けることになるでしょう。だから今から考えていく必要があるのです。全てのデータを効率的に扱えるようにシステムを柔軟化するのには大変時間がかかりますが、デジタル化の絵をきちんと描けていれば、必要なデータだけを効率的に抜き出す妙案も出てくるかもしれません。

 

システム屋の私がこう書くと「何開き直っとんじゃいっ!」と仰る御仁もいらっしゃるでしょう。しかし現代のビジネスはそういうもんだと受け入れて、勉強を続けていかないといけないと思うのです。

 

終わりに

ここのところ、この手の「システムが悪い」という意見を目にする機会が増えました。1年前はIT関係者がよく言っていましたが、最近は普通のニュースのなかで見かけることも出てきています。ITの世界で言われていたときは妙に納得したものの、普通のニュースのなかでこの意見を見ると、「なんか違うんじゃねーか」という感想を持っていました。

なぜ表現の場が違うだけでこんなに自分の受け止め方が違うんだろうと、矛盾に感じていたんです。今回はこれを深堀して考えることができたので面白かったです。